この秋のアメリカ大統領選挙での民主党・バイデン氏の勝利演説の際に行った、副大統領
候補、カマラ・ハリスさんの演説の一節だ。母親は十九歳でアメリカに渡ってきたインド
系移民。女性であり、有色人種である彼女がいずれ世界の大国、アメリカの大統領になる
可能性も高い。若い女性に対して、未来へのあらゆる可能性と夢をもたらせたこの言葉は
格調高い演説の内容と共に、大きな称賛を浴びた。
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今年は日本、アメリカにとって政権交替という大きな変化の年だった(はずだ)。これが
アメリカの民主主義かと疑う様なトランプ大統領の”奇策”。アメリカの分断と混乱は当分
納まりそうにない。翻って日本の政権交替は、あまりに穏やかで高揚感に乏しいものだっ
た。国民一人一人が総裁選びに参加出来ないという制度の違いもあるが、候補者の政策や
情熱もほとんど伝わらないまま、永田町の政治力学で決まってしまったことに、国民はす
っかり冷めてしまっている。世界の中で、アジアに於いてもジワジワと地盤沈下している
日本。それでも日々普通に暮らしていけるならそれでいいではないかと”ぬるま湯”に、ど
っぷり浸かっているのが今の世相なのか。将来をこそ見据えなくてはならない若年層に、
その傾向が強いのが気にかかろ。
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地方議会から叩き上げてきた久し振りの“平民宰相”菅総理。不妊治療の負担軽減や携帯電
話料金の引き下げなど、直接有権者に触れながら感じた思いを矢継ぎ早に行おうとしてい
るのは正に菅流政治なのだろう。惜しむらくは、地盤沈下が続く日本に対して、特に未来
を背負う若者に対して、強いメッセージがないことだ。
この四年間、アメリカ・トランプ流の政治に日本もすっかり翻弄されてきた。目先の交渉
を如何にうまくやるかは政治の一側面ではあるが、全部ではない。ディール(取り引き)
は外交では役立つかも知れないが、国民の信頼や絆を深めることにならないことは、トラ
ンプ政権で実証済みだ。今こそ、高い理想を掲げ、高潔な精神で国民を奮い立たせる言葉
が必要な時ではなかろうか。
古川 忠