福島第一原発の過酷事故から一年半余り。政府の原発対策は未だ迷走を続けている。
民主党政権は「二〇三〇年代に原発ゼロ」を宣言してみせたが、閣議決定は避けるなど、どうも本気ではないらしい。「ゼロ宣言」の方が大衆受けするが、経済界の反発も怖いし・・・。要は「近いうち」の選挙に有利かどうかが本音というのだから、何とも情けない。
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原発を止めたらどうなるのか。日常生活は?、企業活動は?、一方で、この事故は、原発に対する安全技術の未熟さや、原子力ムラの不透明さなど数々の教訓を残した。
現実的な議論と対応は急務だが、福井県・大飯原発の拙速な再稼働は、いつの間にか、何もなかった様に元の原発依存型社会に戻るのではとの不安を懐かせる。この事故は、経済発展のみを前提とした今の社会でいいのかとの、もっと大きな命題を突きつけているのではないか。
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「スモール・イズ・・・」。経済膨張主義に対して警告を発したこの本は、七十三年のオイルショックで過度な石油依存に気付いた社会に、経済の発展と人間の幸福との関係について議論を巻き起こした。その後も経済は成長を続け、すっかり忘れてしまっていたのだが、福島原発事故で、あの警告を再び思い起こすことになった。幸福は経済の成長の上になり立つのか、いや理性的抑制こそ必要なのか。
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今度こそ、これからの人間の生き方、社会構造の有り方について覚悟を決めなくてはならないのではないか。
この覚悟さえ決まれば後は合理的に技術的に対処する知恵はある筈である。
『生きていくには三つのものがいる。ひとつは希望、ひとつは勇気、そしてもう一つはサム・マネー(いささかのお金)だ』。
社会を鋭く洞察した喜劇王、チャップリンが映画ライムライトで語らせた言葉だ。
私たちは今、改めて味わうべきである。
(平成24年10月)
古川 忠